読んだ本

アランナ・コリン著『あなたの体は9割が細菌』

ノルディックウォークを続けております。いい季節になったので歩くのもますます楽しいのですが、この季節、花粉症に戦々恐々としております。

ススキに混じって、憎いあいつが咲いております… そう。セイタカアワダチソウ。この花粉に反応して顔がかぶれるんですよね(ーー;

ドイツでは「子どもをアレルギーにしたくなかったら豚小屋で育てろ」と言われていると聞いたことがあります。アレルギーは免疫系の暴走です。本来なら無視しても差し支えない物質にも免疫システムが過剰に反応するという、いわばシステム障害。

この言葉は、「過剰に清潔な環境では、正常な免疫システムが得られない」ということを言ってるわけです。除菌シートや消毒作用を謳う石鹸、消毒用アルコール、抗生物質の日常的な使用は、私たち人間の体に数億という単位で暮らしている細菌の生態系バランスを崩し、免疫システムの混乱=アレルギーを引き起こしている…ということですね。
良かれと思ってやっていることが、仇になり健康被害を起こしている。皮肉なことです。
アランナ・コリン著『あなたの体は9割が細菌』(河出書房新社 2016.08)
10% HUMAN How Your Body’s Microbes Hold the Key to Health and Happiness. Alanna Collen

帯に踊っているセンセーショナルな謳い文句のせいで、トンデモ科学本みたいな印象になっているのが非常に残念ですが、エビデンスに基づいた極めてまっとうな科学書です。現時点で判明している、細菌と人体の関係を縦横無尽に語り尽くしています。翻訳者も非常に優秀な方でいらっしゃるのでしょう。読むのがまったく苦にならず、エピソードも実に生き生きとした描写が続くので、興味を惹かれた章だけ読んでも十分楽しい。理系の人にも文系の人にもオススメです。

この本を読んでいると、体表、体内にいる細菌がどれほど人体にとって有益であるのかがひしひしと伝わってきます。体表の細菌の研究にくらべ、体内の細菌の詳細な研究は、技術の進歩を待たねばなりませんでした。(体内の細菌は酸素に触れると死んでしまうためです。)昨今、ようやく技術が追いつき、体内の細菌についての研究が盛んになり、様々な事がわかってきました。
たとえば、虫垂(ちゅうすい)は腸内細菌をストックしておくところなので大事な器官だという事や、自閉症には乳児期の抗生物質投与が関係しているケースも多いという事などです。

私は決して「過剰に清潔な環境」では育っていませんが、帝王切開で生まれています。帝王切開で生まれるということは、母親の産道を通っていないということ。それはすなわち、産道の細菌叢に触れることなく外気に突然晒されるという事であり、それだけでもアレルギー体質になる確率が跳ね上がるというのが、統計で判明しています。
そして虫垂炎のため17歳で虫垂切除手術を受けています。まぁ、虫垂炎を放置したら腹膜炎を起こして死んでしまっていたでしょうから、致し方なかったとは思いますが…。アレルギー体質とこんなに長くおつきあいすることになろうとは。
当時の医学の常識ではまったくわからなかったことなので、仕方がありません。

常に心に留めておきたいのは、「現時点での常識は近い将来非常識になるかもしれない」という事実です。
本著では、19世紀半ばでも、衛生・消毒の重要性が医療従事者にでさえ理解されていなかった事なども書かれています。医師は検死解剖の傍ら、器具や自分の手の滅菌消毒すらせずに出産・分娩にも関わっていたというのです。その結果は統計にもはっきり現れています。

病院の急増で最も被害を受けたのは女性だった。病院での出産により、分娩と出産のリスクが下がるところか上がってしまったのだ。1840年代には病院で出産した女性32%が死亡した。当時は全員男性だった医者たちは、高い死亡率の原因を、女性特有の心の弱さや穢れのせいだとして片付け。(中略)助産婦のいる診療所に入院する方が安全だった。助産婦の看護を受けて出産したあと産褥熱で死亡する女性は2〜8%しかおらず、二つの診療所の死亡率の差は歴然としていた。(pp.42~43)

うーん…この時代に生まれなくてよかった…!!と心から思います。

古い時代の「常識」だけでなく、比較的新しいダイエット法などについても言及しています。たとえば、生食主義ともよばれるロー(フード)ダイエット。これが理にかなっていない事などもさらりと書いています。また、最近のグルテンフリー信仰についても言及しています。訳も分からず、グルテンフリーって最先端の「意識高い系」でかっこいいからやってみよう、健康に絶対にいいよね!と思っている方にも、どうか本書を読んでいただきたいです。