わたしのこと

被偸酒 =お酒を飲まれてしまった話=

私はお酒が飲めない。

一族郎党揃って下戸の家系に生まれ、元よりお酒に弱いところへもってきて、19歳で医療ミスで肝機能障害をおこし、更に更にアルコール耐性は下がってしまった。

アルコールを分解する酵素が肝臓にあんまりない、ということは、急性アルコール中毒のリスクが高いことを意味する。

急性アルコール中毒で命を落とす人も毎年一定数いるのだ。酒ごときだなどと侮っていては命が危ない。実に危ない。

それに、お酒など飲んでもちっとも美味しいと感じない。

だから一生自分はお酒の美味しさなどというものとは無縁と思って生きてきた。

そんな私に転機が訪れたのは、数年前。

瀬戸内海でとれた無農薬のレモンをどかっと仕入れて砂糖でつけこみ、待つこと2週間。できたシロップをよく冷えたソーダと少しの白ワインで割ってみたものが実に美味しく感じられた。

だが騙されてなるものか。ほんの三口ぐらいで顔は真っ赤で心臓はバクバクする。やはり酒は悪魔の飲み物だ。般若湯(はんにゃとう)とはよく言ったものだ。

かなり余ってしまった白ワインをどうしようか。料理に使うといっても限度がある。肉料理には大量の赤ワインをどぼどぼ使うが、白ワインを大量に使う料理などろくなものではない。よし、野菜室に入れっぱなしにして忘れていた干しイチジクを白ワインに浸しておくか。

3ヶ月後、かちこちだった干しイチジクはぽってりと白ワインを含み、あまつさえなにやら芳醇な味わいを醸し出しており、ウォッシュチーズとよく合う。

けしからん。なんとけしからんうまさであるか。

キッチンでちみちみとそんなものを摘んでいると、女同士の七面倒くさいごちゃごちゃドロドロしたつきあいから生じる懊悩など、どーーーーーでもよくなってくる。

キッチンドランカーになるのではないかと内心おののいたが、所詮下戸なので、おちょこに1杯にも満たないアルコールで酩酊しているぐらいでキッチンドランカーなどにはなりようもない。そんな心配は今にして思えばまったく無用であった。

ある日ふと仕事帰りに、阪神沿線のスーパーで「手取川」というワンカップが売られているのをみた。

ワンカップといえば大関ぐらいしか知らなかった東京の田舎ものの私だったが、手取川が石川県の川であることは知っていた。なんとなれば、以前、仕事でやむを得ず読んだ苦痛なほど長い歴史小説に、信長が能登攻めをしたはいいもののボコボコに反撃されて、手取川沿いに敗走したと書いてあったからだ。すげーな能登勢と思ったものだった。

閑話休題。

私はすかさずそのワンカップを手にとり、買い物かごにいれ、牛すじ、ネギ、カワハギ、ヨーグルトなどとともに購入した。

当時わたくしの夫であった人は、お酒が好きすぎる両親の下に育った反動から、意図的にお酒を遠ざける生活をしていた。だがその彼も手取川の前には屈した。

「お水みたーい!きゃはははは」と、いい歳した大人がはしゃぐのである。

ほう…

なるほど…これがうまい日本酒というものであるか、と一口飲んでみたところ、まるで水のようにするすると喉を下ってゆく。

まじか。

そういうことなのか。

これは実に…… うん、なんというか、

おいしいものですなぁ。

そんなわけで、過日金沢へ行った折には手取川を買おうと意気込んでおったのですが、気がつけば「宗玄」という別なお酒を購入しておりまして。

それを大事に抱えて東京へ帰り、兄嫁とキッチンで適当なアテをこしらえて立ち呑みをエンジョイしたり、オンザロックにしてちみりちみりと惜しみながら舐めるように味わっていたりしたのに、先日、父の友人が来襲し、昼間っから私のお酒を抱えて呑みやがりまして。

うるかをアテにして。

うるかで一杯と洒落こんだところが、宗玄のあまりのおいしさに半分以上を呑んでしまったと。

なんという無礼者であろう。私の留守中にあがりこんで私の酒を飲むとは。

そう憤っておったところ、「O田さんがそんなにおいしいというのなら」と父までもが調子に乗って昨日今日と立て続けに飲み、あっというまに1/6程度を残すだけと相成った次第。

酒の恨みはおそろしい。たとえ下戸であったとしても。

画像は未開封の宗玄をウキウキした気持ちで撮影したもの。嗚呼。在りし日の宗玄をみてやってくだされ…

 

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