英語圏で体の勉強をしていて、感情表現の比喩・隠喩をいろいろきくにつれて英語圏ではどうやら本音は胸に宿るらしいと気がつきました。どう説明されてもこれが私には全然ピンとこない。日本ではメタファーにしっかり残っているように、本音が収まっているのはハラ:腹部です。
ハラと一言でいってもいろんな漢字があるように(腹、腸、肚、胎)消化器の腸を指したり子宮を指したり、広く腹部全般を指したりします。(余談ですが、最近ではアメリカでも気功が盛んで、丹田を「hara」と言います)
悪意があって利己的なのは「腹黒い」、本音をさらけだすことを「腹を割って」話す、怒りを感じてむしゃくしゃすることを「腹の虫が治まらない」、相手のわがままや横暴を我慢し耐えるのももう限界だという時には「腹に据えかねる」、冷静でどっしりかまえて覚悟が決まっている様子は「肝(これも広義にはハラに含まれる語)がすわっている」。日本では、ハラは感情や性格と密接に結びついた部位として古くから認識されています。
私は17歳で受けた虫垂炎の手術痕が一部癒着し、腸の動きが悪くなってしまったのですが、この癒着部分の制限の強さ・痛み等は私にとってはストレスや生活リズムの乱れを図る一つの目安になっています。癒着箇所の硬さが増したり痛みが強かったりしたら、「あ〜、実感はないけど負担に感じているんだなぁ。今日は早く寝よう/食事を見直そう/もう少し自分の手綱を緩めよう」といった感じで対処を自ら促します。
そういう実感があったので、しみじみ「腸って賢いし正直だなぁ」と思っていました。考えてみればそれも道理で、腸だけの生物はいても脳だけの生物はいません。ヒトも、胎内では原腸が形作られてから、その後各器官の発達が始まります。脳よりも腸の方が遥かに歴史が古い内臓なのだから、それだけ体にとって重要な器官だということですね。
最近興味を惹かれて手にとってみた本には、腸が人にとっていかに大事かを簡単にわかりやすく書いてありました。
小林弘幸著『人生を決めるのは脳が1割、腸が9割!』(2014、講談社)著者は順天堂大学教授で、日本初の便秘外来を開設された方だそうです。本書では、感情と腸の動きの関連を、自律神経や交感神経・副交感神経の働きから説明しています。難しい専門用語は使わず、医学用語も必ず平易な言葉におきかえていますので、医学書というよりも気軽な読み物といった感じです。タイトルになっている「むくみ腸」のむくみとは、血流が滞り蠕動運動が満足にできなくなっている状態をさしています。往々にして”体質”で片付けられてしまう便秘や軟便といった腸の不調は、思考パターンや性格、生活スタイルとつながっていることをサクサクと解き明かしてゆきます。
以下にちょっと衝撃的(?)だった箇所を引用してみます。
便秘の原因は基本的にストレスであると述べましたが、それはストレスによって交感神経が優位になり、腸のむくみを引き起こしやすくなるからです。毎日の生活のなかでなにかがどこかでつまり、それが様々な形であなたの体に現れているのではないでしょうか?
便のつまりという「部分」だけをみないで、自分の生き方「全体」をとらえ、そのなかで意味を問うようにすると、便秘が改善されるだけで人生が変化していくのがわかります。
“大学病院の先生”にしては思い切ったことを言うなぁと驚いたのですが(いい意味でですよ!)、こういうお医者さんがいるなら便秘外来も思い切って行ってみたくなりますね(笑)
私も、体質や慢性的な不調には自分の生き方・性格が反映されているかもしれないと感じています。
私たちはアタマであれこれ考えることに慣れすぎてしまっていて、論理的であることや、矛盾のない状態であることばかりを過剰に重視する傾向があります。
だから、億劫な相手と会う日の朝に熱がでたら「風邪にしては喉が痛くないし咳もでない。約束したし解熱剤飲んででかけよう」とかやってしまいがちです。せっかく体はシグナルをだしているのに、理屈を優先させて薬でおさえこんで無視する。その繰り返しで自分の「体質」や慢性的な不調を助長してしまう…
頭で考えるよりも体の反応に耳を傾けて、体の出しているシグナルに忠実に従ってみることから、体質改善のきっかけが得られる場合もあるかもしれません。