認定ロルファー™の利香です。
「ロルフィング®には興味あるけど単価が高いし、セルフで出来ないかと考えたことがある」と仰る方が、しばしばいらっしゃいます。セルフエクササイズで施術と同等の効果を得られないかという発想です。
日本人ロルファーが書いた書籍は何冊も出版されていて、そのほとんどにセルフケアの方法としてエクササイズやイメジュリーを用いたワークを紹介しています。図解も多くてわかりやすいのが、安田登さんの『ゆるめてリセットロルフィング教室』(祥伝社黄金文庫 2011)です。(10シリーズを現在受けている人や10シリーズ卒業者に読んでもらいたい良書です)それに、ロルフィングでも用いられる筋膜リリースの手法は、YouTubeで誰でも視聴できます。
そこから「本や動画だけでロルフィングをセルフでできないか」という発想に至ったのかもしれません。
が、結論から言うと、自分にロルフィング10シリーズセッションを施すことはできません。今日はその理由について書きます。
ロルフィングの施術の特徴
動作の再教育
ロルフィングの最大の特徴は、動作の再教育と統合のプロセスを踏むことにあります。最初に、ロルフィングにおける動作の再教育について述べたいと思います。
ゆがみ・痛み・コリ・かたさを引き起こす動作の癖。これを修正するステップは、3つのパートに大別されます。関節や筋肉の分化・正しい動作のインプット・関連する関節や部位との統合です。
足(foot)のセッションである第2セッションを例にすると、ロルファーはまず筋肉や靭帯、骨を考えながら固いところや動きの悪いところをほぐします(分化)。次に、歩行時の正しい体重の載せ方を身体にインプットします。最後に、爪先(MP関節)・甲にある関節(ex.リスフラン関節)・足首等の動きを、膝・股関節・骨盤と連動して行えるようにします(統合)。
ちょっと冷静になって考えてみて欲しいのですが、無意識に身につけた癖を自分で気づいて適切かつ迅速に修正できるなら、誰も慢性痛や可動域の狭さに悩まされたりしません。セルフエクササイズの落とし穴は、気持ちいいと感じられることはやたら時間をかけてやるけれど、1、2回やってみてピンとこないことは勝手に省略したり、誤った動かし方に気づかず効果のないことを漫然と続けたりすることです。自分が知覚できること以上のことはできないので、こういうことが起こります。
「わたしがそんな風に歩いているなんて知らなかった」「こうやって腕を持ち上げたら肩が痛まない!」「正しい座り方なんて誰も教えてくれなかった」というフィードバックをよくいただきますが、知覚していなかった感覚への気づきは、あなたの身体の動きを客観できる他人からもたらされる方が正確です。また、「それがうまくゆかないのなら、こうしてみたらどうだろう」という、知識と経験に基づくアイディアをいくつも持っているプロから正しい動作を習う方が効率的です。
統合のための視線
次に、統合についてです。
マッサージや筋膜リリースが、リラクゼーション・疲労回復・動作に伴う痛みや可動域の改善・筋肉の硬結を取りスムーズに動かせるようになることを目的としているのに対し、ロルフィングは身体が全部でひとつのものとして機能することに重きを置いています。個々の関節をよく動かせるようにして終わり、固くなった筋肉をゆるめて終わり、ではありません。
ロルフィングでの統合とは、身体の各パーツが協働して重力の下でうまいぐあいに機能し、目指す動作をスムーズにできるようにすることです。誤解を恐れずに言うと、痛みの消失も可動域の改善もその副産物なのです。
統合を可能にするのは、訓練されたロルファーの視線です。どことどこが関連付けられていないか、連続性のある動作を引き出すにはどのようなアプローチが有効か。これはクライアントによって文字通り千差万別です。その人が置かれた環境や価値観、体力や気力のポテンシャル等までを含め、全体としての動作の調和を考えながら、各セッションの終わりに統合をはかっています。(10シリーズでは第8セッション以降が統合に充てられています)
セッションを受けて関節と筋肉のバランスがかわると、身体の垂直軸・水平軸が変わります。このふたつの軸に変化が起きた機を捉えて、新しい秩序のもとで身体がスムーズに動けるようにできるのは、ロルファーだけです。
セルフケアへの意識が高いのはいいことです。しかし、セルフでできることには限界があります。他人に触れられるからこそ起こる変化、他人の視点だからこそもたらされる新たな感覚。そういうものでロルフィングのセッションは満ちています。