ロルフィング

「なにもしない」で変化は起こせるのか?ロルフィングが他のボディワークと大きく異なる点

認定ロルファー™の利香です。
昨日はロルファーの大先輩にあたるおふたりの対談を拝聴しました。ロルフィングを捉えなおすよい機会となりました。そこで今日はディープに身体と意識という切り口から、ロルフィングについて書いてみます。

http://mameromantic.com/?p=56914

 

 対談は簡単に説明すると次のような流れでした。
 ロルフィングとはどんな考え方で身体を捉えるワークなのか、「何もしないことによってつくりだされる変化」とは具体的にはどういう現象なのかを、田畑 浩良さんが簡潔にスライドで説明。
 その後、能楽師の安田 登さんが能楽師の観点からロルフィングについて語り、田畑さんによる安田さんへの公開ワーク。ワークの前後に安田さんは謡を演じ、ワーク前と後とでどう身体が変わるのかを伝えてくれました。
 最後はなんと!安田さんによる夏目漱石「夢十夜」(の第三夜)を拝見するという、グッとくる締めくくりでした。(この体験については後日改めて書きます!)

 

「なにもしない」公開セッションの様子


 舞台にマッサージテーブルを広げ、袴姿の安田さんに田畑さんがセッションをする(といっても身体にはほとんど触れない)という、滅多にないシチュエーション。

 セッションとはいえ、田畑さんがマッサージのようなことをするわけではありません。田畑さんは、自分とクライアントの双方が心地よいと感じるポイントに立ち、自分のハラ(肚)に意識を向け、ハラに重心が落ち着くかどうかを感じながらクライアントの変化が自発的に進むように働きかけます。

 この働きかけは、クライアントの様子を視覚や聴覚をつかって観察し、時々、変化をうながす指示(キュー)を出すこと以外に、自分の立ち位置や姿勢を変えることも含まれます。田畑さん本人の内部感覚に基づいてなさっていることなので、何が起きているのか視覚情報だけでは、伝わりにくいかもしれません。

 しかし、ここでおこる変化は周囲にも影響を及ぼします。わたしの隣の席にいた若いダンサーは、「公開セッションの間、舞台上のふたりの感覚の動きを感じとっていたのでもじもじと身動きせずにはいられなかった」と話してくれました。わたしも、自らの呼吸の変化やちょっと窮屈な感じ、腹部が広がり脚がゆったりとのびてゆく感じなどを体感しながら、ごそごそ身動きしていました。

 「腰が頑張っちゃっている」「腰が気になる」と腰の違和感をなんども口にされていた安田さんですが、20分ほどのセッション後にはそれをすっかり忘れて「(横隔膜や骨盤底筋等の)隔膜がいい感じになった」と、隔膜を使い分けて謡を朗々と披露。腰はいかがですか?という田畑さんからの問いに「あっ。全然気になりません!」と答えていらっしゃいました。どうやらすっかり忘れていらした模様です。

 

「何もしないこと」で身体が変わる?

 「何もしない」には語弊があって、補足すると「体に直接触れて圧したり伸ばしたりということはしない」の意味です。ほんとうに何もしていないわけではありません。
 直接触れないのに体が変化する?氣?気功?エネルギー?なにそれうさんくさい!って思いますよね。そのお気持ちはよくわかります。

 でも、ちょっとこんな状況を想像してみて欲しいのですが…ふと視線を感じて目をあげたら離れた場所から誰かから凝視されていたことはありませんか?苦手な人がそばに立っているだけでイライラしたり、好きな人がリラックスした状態で同じ空間にいるだけで安心したり。
 このように、身体感覚は、同じ空間にいる人から向けられる意識や立ち位置、関係性からも影響を受けます。決してうさんくさいことではありません。
 ロルフィングにはこの身体感覚がとても大切なのです。

 

能楽師・安田登さんの「場」の感覚

 安田さんもロルフィングを学ばれたひとりです(最近はロルファーとしての活動はされていません)。最初は舞台の向かって左手に安田さん(ゲスト席)、右手に田畑さんが座る予定だったのですが、「ここの方がしっくりきますね」と、普段、能の舞台でワキとして座す場所=舞台向かって右手にすぐに自ずから落ち着かれたことが印象的でした。
 「身の置き所がない」という表現が端的に表しているように、空間における身体の置き場所は、快・不快の意識と密接に関わっているのです。

 

ワキの場とワキの意識

 安田さんはワキとして意識のあり方がそれぞれ異なる座り方を、何パターンも見せてくれました。
 シテの位置にいる田畑さんを視野にいれつつ「なにもしないことを全力でしている」状態にある時と、ぼんやりと休んで座っている時との違いは特に顕著でした。「なにもしないことを全力でしている」時は、からだ全体からムンっと発せられる圧が違います。その圧とは、最初に述べた、意識や立ち位置から受ける影響のひとつでもあります。
 ワキはシテ(往々にして此の世の者ではない存在)の狂気にひきこまれぬよう、ハラに意識を置き、足の裏でしっかりと地を踏みしめて此の世に留まりつづける存在です。そこで重要になるのが、彼我の区別:彼か我かの区別です。

 人の身体に触る仕事をしていると、自分の感覚とクライアントの感覚が曖昧になる瞬間が時々あります。それは好ましい同期ではなく、境界が曖昧になることから生じる混線のようなものです。この混線は、施術者を疲弊させるだけでなく、クライアントの変化に対しネガティブに働くことがあります。
 意識の上で彼我の区別を認識しながら、自分の感覚の内側に留まり続けることが施術者には必要です。それが、安田さんのおっしゃるワキの場と意識の作り方にも通じるなと感じました。

 

ロルフィングが他のボディワークと突出して異なっている点

 マッサージや痛み解消のための整体に慣れている人にとって、ロルフィングは理解しにくい「へんてこな整体の一種」のように思われているかもしれません。
 ロルフィングがそれらと大きく異なる点は、今回の対談形式のイベントで明らかになったように、意識や身体感覚に強くフォーカスしている点です。

 自信のない人はうなだれ、自信に満ち溢れた人は胸を張るように、姿勢や動作には周囲の人間との力関係や世界観や自己認識が表れます。だとしたら、ただ筋膜をリリースし歩行時の体重移動をどうするかなどを伝えるだけでは不十分です。 

 世界の中でどう振る舞うのかを決めている意識。その意識のトリガーとなる身体感覚(怖いから鼓動が早まるのではなく、鼓動が早まるので怖いという感情が引き起こされます。身体の反応は感情より先んじて起こります)。これらにクライアントが自覚的になることを促すという要素が、「問題の根本解決」には必要です。

 ロルフィングにはそれがあります。だから「なにもしていない」ような穏やかなワークでも変化を感じる人たちがたくさんいるのです。そのことを再認識した対談イベントでした。

 

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